武者小路実篤『友情』あらすじ解説|日本近代文学の代表作品

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友情 散文のわだち

武者小路実篤の小説『友情』は、日本近代文学の傑作と名高い作品です。

夏目漱石の『坊っちゃん』、川端康成の『伊豆の踊子』と並んで、現在でも多くの人に読み継がれています。

日本文学史において、歴代ベストセラーランキングトップ10に入っています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者武者小路実篤(90歳没)
発表時期  1919年(大正8年)  
ジャンル長編小説
恋愛小説
ページ数185ページ
テーマ恋と友情の葛藤
個人主義の葛藤

あらすじ

あらすじ

脚本家の野島は、作家の大宮と尊敬し合い、仕事に磨きをかけています。彼らは類まれに見る素晴らしい友情で結ばれているのです。

ある日、野島は友人の仲田の妹・杉子に恋をします。ずば抜けた美貌、率直で気立のいい性格。杉子はまだ16歳ですが、周囲の男たちは数年後の婚期に向けて、着々と彼女に接近しています。野島は杉子への想いを、親友の大宮にだけ打ち明けます。すると、やはり大宮は親身になり応援してくれました。

その夏、仲田兄妹と、大宮兄妹は、それぞれ鎌倉の別荘に出かけます。野島は大宮の別荘で過ごしつつ、杉子に会いに仲田の別荘へも赴きます。野島はますます杉子の魅力に惹かれ、一方彼女の方も、野島のことを尊敬しているみたいでした。

鎌倉滞在中、突然に大宮がヨーロッパに旅立つことを告げます。日本の文化発展のために西洋芸術の勉強をする目的でした。そして東京に戻ってすぐ、彼は旅立っていきました。

約1年後、野島は思い切って杉子へプロポーズします。しかし、呆気なく断られてしまいます。諦めきれないまま1年が過ぎ、杉子は突如ヨーロッパへ旅立ちます。その後、大宮の新作小説には、杉子が大宮へ抱き続けていた恋心と、友情と恋愛の葛藤に苦しむ大宮の心情が描かれていました。それを読んだ野島は、大宮に決別を告げ、「仕事の上で決闘しよう」と返事を書くのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

「新しき村」の若者に向けた物語

「この小説は実は新しき村の若い人たちが今後、結婚したり失恋したりすると思うので両方を祝したく、また力を与えたく思ってかき出した」

『友情』の重版に伴い、武者小路実篤は、本作が「新しき村」の若者に向けた作品であると主張しています。

この「新しき村」とは、武者小路を中心に、埼玉県に創設された村落共同体を指します。

階級格差や過重労働を排した、精神生活の場を目的とした、いわば理想郷的な共同体です。とりわけ共産主義的な思想に感化されて創設されました。

大正時代と言えば、資本家に意義を唱える社会主義や共産主義が日本に流入され、あるいは全体主義的な雰囲気から西洋個人主義へ移り変わろうとする過渡期の時代です。

こういった波を察知した武者小路は、新しい時代を生きる若者に、文学作品を通して、個人主義的な価値感、とりわけ恋愛観を教育していこうと考えたのだと思われます。

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全体主義と個人主義の葛藤

恋愛の葛藤を描いた文学作品といえば、しばしば夏目漱石が想起されます。

自由恋愛が許されない時代の叶わぬ恋を描いた『三四郎』。三角関係の末の罪悪を描いた『こころ』などなど。

実際に『友情』の作中には、夏目漱石の『それから』という作品が引用されています。

友への義理より、自然への義理の方がいいことは「それから」の代助も云っているではありませんか。

『友情/武者小路実篤』

『それから』は、自分が恋した女性を友人と結婚させた主人公が、最終的にその女性と生きる決意をするまでを描いた物語です。

『それから』に限らず、漱石の作品は、明治時代の全体主義的な風潮、つまり恋愛において自分の本心よりも、世間体や親の意向が重視される風潮の中で苦しむ人間を多く描いています。

そして大宮に告白する杉子の手紙に、『それから』が引用されていたのは、まさに彼ら自身が夏目漱石的テーマの境遇にあったからです。

自分の恋心と、友情、そのいずれを優先するかという葛藤です。

野島が杉子に恋をする以前から、大宮は密かに杉子へ想いを寄せていました。そのため野島に恋愛相談をされた時、親身になって応援する素振りを見せていましたが、内心では酷く動揺していたのです。だからと言って大宮に邪心があったわけではなく、杉子と野島が結婚さえしてくれれば、自分の想いを抹殺できると信じ、本気で二人の恋愛を応援していました。

それにもかかわらず、杉子も大宮のことを好いているという最悪の事態が起こったのです。

杉子の好意に気づいた大宮はわざと彼女に冷たい素振りを続けます。親友の面目を潰さないよう心がけたのです。しかし、多くの男に囃し立てられる杉子には、その冷たい態度は逆効果に働き、彼女の好意は増していきます。がんじがらめになった大宮は、西洋に旅立つことで事態を免れようとしました。

それにも関わらず、杉子は西洋にまで手紙をよこして、大宮の本心を詮索します。大宮は必死で友人の顔を立てるような返事を送り続けます。ところが杉子は、友人への義理よりも、自分の本心の方が大切なのではないか、と問いかけるのでした。

この、友人への義理と、自分の本心、という天秤こそ、夏目漱石に感化された全体主義と個人主義の葛藤と言えるでしょう。

もちろん個人主義が普及する現代においても、友情と恋愛のジレンマは、誰しもが経験する青春時代の葛藤です。しかし、全体主義的な風潮の当時、世間体や他者の目を無視して、個人の想いを貫くのは今以上にとてつもなく恐ろしい行為だったのです。

夏目漱石の『こころ』では、三角関係の末にKは自殺し、先生もその罪悪感によって自殺します。現代人からすれば、どこか大袈裟な印象を覚えますが、当時は利己心の果ての「恋の罪悪」は、文学になり得るほどに、日本人を縛り付けていた重大な問題だったのです。

とは言え、夏目漱石の作品の場合、個人主義の果てに主人公は敗北や破滅を経験しますが、武者小路の『友情』はそれほど悲観的な結末ではありません。明治から大正に移り変わり、少しずつ個人主義が許容されていった背景が見て取れます。

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野島はなぜフラれたのか

ですが私は、どうしても野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです。

『友情 /武者小路実篤』

杉子の手紙の内容は、あまりに酷でした。杉子が野島を心から尊敬しているのは事実ですが、しかし生理的な部分で野島と一緒にいることはできなかったのです。

尊敬はしているが、生理的に受け付けない、その原因は、野島の相手を理想化してしまう性格のためでした。

恋愛を知らない野島は、かなり杉子のことを神格化していました。とりわけ杉子の美しい内面に惚れ込み、あるいはあんなに美しい人間が老いていくことが信じられず、彼女にだけ万物とは異なる摂理が働いている、つまり永久に老いないような価値観の中を生きているとさえ信じ込んでいたのです。恐ろしいくらいに理想化しています。

そういった野島の性質に気づいた杉子は、次のようなことを感じていました。

野島さまは私と云うものをそっちのけにして勝手に私を人間ばなれしたものに築きあげて、そして勝手にそれを賛美していらっしゃるのです。ですから万一一緒になったら、私がただの女なのに驚きになるでしょう。

『友情/武者小路実篤』

勝手に自分のことを理想化する野島を重荷に感じ、そのために生理的に受け付けなくなってしまったのです。

多くの男が杉子を囃し立てる中、野島は自分だけは彼女の本質的な部分を知って好いていると自負していました。しかし、杉子からすれば、野島も他の男と同様、あるいはそれ以上に自分の本当の姿を見ていない身勝手な存在だったのです。

大宮も小説の中で、野島の理想化しがちな性格を忠告していました。「恋は盲目」とは、恋のあまり周囲が見えなくなることではなく、相手を自分の都合いいように見過ぎることだ、と記しています。

結局は野島の未熟な恋愛観のために玉砕したと言えるでしょう。きっと青春時代、誰しもが経験したことのあるエゴイスティックな過ちだと思います。

野島は、二人にとって幸福でなければ結婚する意味がないと考えていました。しかし、相手の優れた部分ばかりを理想化するのではなく、欠点を愛して初めて、彼の言う意味での結婚が果たされるのでしょう。

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結婚も失恋も素晴らしい

自分はここではホイットマンの真似をして、失恋するものも万歳、結婚する者も万歳と云っておこう。

『友情/武者小路実篤』

作者は本作の序文に、上記のようだ文章を付け加えています。

この、失恋も結婚も素晴らしい、という一文は、まさに本作で描かれる最重要テーマを端的に言い表していると思います。

作中に置き換えると、失恋するものとは野島で、結婚する者は大宮です。では三角関係のこじれの末に、結果的に双方にとって良い影響をもたらしたと言えるのでしょうか。

野島は杉子に振られた後、失恋の悲しみから来る野心によって、脚本家として徐々に注目される作品を生み出すようになりました。

一方、大宮の方は元より作家としてそこそこ認められていたのですが、結婚し自分の生活を支援してくれる存在を抱えることで、より良い作品を生み出せると確信していました。

このように、彼ら二人は、恋愛の喜びと悲しみのいずれをも、自らの創作活動に活かす素質を持っていたのです。

さらに二人の友情はこじれてしまったものの、最後に野島はこんな手紙を大宮に送ります。

君よ、仕事の上で決闘しよう。君の残酷な荒療治は僕の決心をかためてくれた。(中略)僕は一人で耐える。そしてその淋しさから何かを生む。

『友情/武者小路実篤』

直接的な復習を図るのではなく、芸術を持って、正々堂々と勝負を挑んだのです。

このような闘争心は、今まで以上に二人の仕事に磨きをかけることになるでしょう。これこそ武者小路実篤が描きたかった真の友情の在り方であり、「新しき村」の若者たちに伝えたかったメッセージなのだと思います。

結果がどうであれ、恋は創作活動に大きな影響を与える。最も無価値なのは、結果を恐れてあらゆる体験を放棄することである。そんな教訓が描かれていたのではないでしょうか。

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