太宰治『恥』あらすじ考察 イタいファンに恥の一撃

恥 散文のわだち
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太宰治の『』と言えば、短編作品ならではのユーモラスな作風が最も感じられる小説です。

2015年に刊行された『女性作家が選ぶ太宰治』に選ばれるなど、とりわけ女性ファンに人気な「女性一人称」で描かれる作品です。

『恥』作品概要

作者太宰治(38歳没)
発表時期1942年(昭和17年)
ジャンル短編小説、独白小説
テーマ高慢な自尊心
恥と憎悪

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『恥』簡単なあらすじ

あらすじ

23歳の女性である和子が、小説家である戸田との間で赤恥をかいた経験を、友人の菊子に手紙で知らせる設定で物語が綴られます。

学者の娘で知性のある和子は、作家の戸田に辛辣な手紙を送ります。作者の低俗な人物像を彷彿とさせる下品な小説を扱き下ろした上で、教養を深めるようにと、上から目線な態度で諭そうとします。和子は小説を読んで、勝手に戸田は見窄らしい人だと思い込んでいるのです。その一方で、和子は戸田の作品に一筋の哀愁のようなものを感じており、その旨も手紙に記します。

間も無く文学誌に掲載された戸田の作品を読んだ和子は、手紙を見て自分をモデルにしたのだ、と確信します。主人公の名前や年齢や家柄が自分と同じだったのです。再び手紙を送りつけた和子は、戸田からの返事を受け取った翌日に、居ても立ってもいられず家まで押しかけます。見窄らしい戸田の容姿に程度を合わせるために、和子は自分の身なりも見窄らしくした上で訪ねます。ところが小説のイメージとは違い、立派な家と、綺麗な奥さんを持つ戸田は、キリッとした清潔な男性でした。さらには、小説は全てフィクションなので、誰かをモデルに採用することはないと明言され、和子は全てが勘違いだったことに気づき、酷い赤恥をかくことになりました。

和子は、菊子に宛てた手紙の中で、「小説家なんて、つまらない。人の屑だわ」と憎悪の気持ちを記すのでした。

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『恥』個人的考察

個人的考察

ユーモア作家としての太宰

代表作『人間失格』『斜陽』から想起される、太宰治の深刻な印象。4度の自殺未遂の末に、5度目でこの世を去った逸話からも、彼の人世がいかに破滅的であったかが推測されます。

しかし、掘り下げて短編小説を読んでいくと、太宰治の印象がガラッと変わると思います。

初期の短編は、私小説の要素が強く、一般的なイメージ通り、「死にたい死にたい」と嘆いてばかりの作品が多いです。『二十世紀旗手』という作品集なんかは、精神病院に入院していた時期の短編の寄せ集めで、なおかつ前衛的な手法に取り組んでいるため、かなり難解だったりします。(太宰信者からは人気です。)

ところが、それ以降の太宰は、その根底には深い闇があるにしろ、比較的ユニークな作品を多く残しています。

例えば『畜犬談』という作品は、犬嫌いの主人公が逆に野良犬に好かれてしまうという皮肉な物語です。『美少年と煙草』では、雑誌社の依頼で戦後の浮浪者の少年たちと写真を撮りに行った主人公が、その写真を妻に見せたら、自分を浮浪者と勘違いされる、という自虐的な物語を描いています。

そして本作『恥』についても、太宰治のシニカルなユーモアがふんだんに詰まった作品です。

小説の主人公の野暮ったいイメージを、そのまま作家本人のイメージと思い込んだ和子。アレコレと上から目線で指図した末に、実際に会いに行けば自分の勘違いだと気づき、大恥をかくという物語でした。

作家本人の人物像と、世間が思い描くイメージの齟齬。道化としての生き方に苦しんだ太宰だからこそ描ける、本質的な人格の喪失といった主題が垣間見えます。




高慢な人間の姿

主人公の和子は非常に高慢な女性でした。作家の戸田を「無学」だと罵ったり、「人格が完成したら会ってあげる」などと、まるで上から目線の言葉を手紙に記して送りつけます。

されど和子に悪意はありません。学者の娘のため、知的で、上品だと自負しており、無学で猥雑な戸田を自分が導いてあげようと、善意で考えているのです。まるでヒロイックな精神に憑りつかれているようです。

和子の高慢さは次の3つに象徴されています。

  • 「女は広告の多い本ばかりを読む」という発言
  • 自分だけが戸田の小説に哀愁感を見出している
  • 自分が小説のモデルだと思い込む

「広告のさかんな本」とは、挿絵が多い、いかにも大衆向けの本といったイメージです。

本作の執筆当時はまだ戦後、大正時代以降に学問を習う女性が増えたとはいえ、まだまだ「女子供」という言葉が象徴するように、女性は無学な本を好む印象が一般的だったのでしょう。

そんな中、自分は周囲とは違い、学問としての文学に触れる教養のある女性だ、という和子の自尊心がだだ漏れです。そういった自負ゆえに、戸田の小説を上から目線で採点していたのですから高慢です。

あるいは、戸田の小説を非難するばかりではなく、その根底には「哀愁」があると評してもいました。低俗な内容の小説であるため、女性のファンが全くいないと罵りつつ、和子だけは賞賛すべきポイントを見出しているのです。これはまさに、大衆を差し置いて、自分だけが特別に戸田の文学の素晴らしさを理解している、という自尊心の表れです。今で言うところの、サブカル気取りのティーンが抱く「自分はみんなと違う」欲みたいなものでしょう。

極めつけは、戸田の小説の登場人物のモデルを自分だと思い込んでしまいます。ここまでくると、いよいよ過激なファンの領域です。

個人的な経験談になりますが、以前とあるバンドのライブに行った際に、偶然隣になった目の焦点が合わない女性が、突然私に話しかけてきて、ボーカルの誰々と自分は結婚していて、あの曲は自分のために作ってくれたんだ、などと力説されたことがありました。あの焦点が合わない目が凄く怖かったのですが、もしかしたら和子の目もそんな感じになっていたのかもしれません。自尊心が過激、妄想と現実がごちゃ混ぜになっています。

色恋沙汰の多い太宰治、それはそれは女性にモテたことでしょう。ファンの女性からもたくさんのお手紙を受け取っていたはずです。ましてや彼の作風を愛する女性ですから、和子のような、いわゆる「イタファン」も中にはいたのかもしれません。

恥から嫌悪への転換

この作品で最もユーモラスなのは、恥をかいた和子が最後に、作家を酷く罵る部分じゃないでしょうか。

小説の主人公のイメージから、戸田の勝手な印象を築き上げていた和子は、家を訪問する際に、わざと見窄らしい恰好をします。貧乏でハゲで酒飲みという勝手な印象から、自分が上品な格好をすれば戸田に失礼だと余計な気遣いを施していたのです。しかし実際の戸田は、立派な家と、綺麗な奥さんを持つ、きりっとした顔立ちの男性でした。勘違いのせいで、和子は気遣いのつもりだった自分の汚い身なりを、晒す羽目になったのです。

さらには、小説は全てがフィクションだと戸田に明言されたことで、自分をモデルに採用したという認識が勘違いだったことが明らかになります。おまけに戸田は、いちいち和子の手紙の在処など覚えておらず、モデルに使うために和子の素性を調べ上げる興味も関心も持っていませんでした。おかげで和子は、まるで自分など相手にされていない事実を知らされたのです。

極めつけに、和子が送った手紙を送り返してもらった際には、戸田から同情のようなメッセージさえ記されていませんでした。

当初は自分が無知な戸田を導いてあげる、などと上から目線な立場でした。しかし戸田と対面にしたことによって、自分などまるで相手にされていない、という上下の関係性が一気に反転してしまったわけです。

このように自分の勘違いで酷く恥をかいた和子は、次のような感情を抱きます。

小説家なんて、つまらない。人の屑だわ。噓ばっかり書いている。ちっともロマンチックではないんだもの。普通の家庭に落ち附いて、そうして薄汚い身なりの、前歯の欠けた娘を、冷く軽蔑して見送りもせず、永遠に他人の顔をして澄ましていようというんだから、すさまじいや。あんなの、インチキというんじゃないかしら。

『恥/太宰治』

自分は特別にあなたの良さを理解している、という自惚れスタンスで気取っていたのに、恥をかいた途端、「人のクズ」などと罵るのですから、人間の感情は恐ろしいものです。

過剰な自尊心やヒロイックな精神が崩れた途端、自己防衛のために相手を攻撃してしまう。人間の特性をこれほど生々しく描くのですから、太宰はやはりただならぬ作家です。




虚栄心が強い戸田の恥じらい?

作中では戸田の目線で物事が語られないため、彼が何を考えていたかは謎のままです。つまり、実際のところは、和子をモデルに採用していない件には、あまり信憑性が無いのです。

「何だか、僕の小説が、あなたの身の上に似ていたそうですが、僕は小説には絶対にモデルを使いません。全部フィクションです。だいいち、あなたの最初のお手紙なんか。」ふっと口を噤んで、うつむきました。

『恥/太宰治』

確かに戸田は小説にモデルを採用しないと明言しましたが、最後に口を噤んだ様子が気になります。何か口走ってはいけないことを言ってしまいそうになったのでしょう。

1枚目の手紙には、和子は自分のことを上品で理知的な人間として書いていましたが、実際に尋ねてきた和子は下品で見窄らしい恰好でした。ともすれば、「だいいち、あなたの最初のお手紙なんか、実際のあなたとまるで異なるじゃありませんか」と続いても不自然ではありません。あまりに残酷な台詞である故に、ふっと口を噤んだのかもしれません。

あえて深読みするなら、実際は和子をモデルに使っていて、あまり和子の身なりについて詳しく喋り過ぎると、そのことがバレるかもしれないので、口を噤んだという解釈もできます。

戸田は作家としての虚栄心が強く、モデルに使った事実がバレることを恐れて、わざとよそよそしい態度を貫いたのかもしれません。

手紙が全部で2通だったかを尋ねた戸田は、日々のファンレターの多さのため、和子の手紙の在処はもう判らない、と主張します。その冷酷な態度の裏を返せば、モデルに使ったことを隠ぺいするために、和子の手紙など記憶に残っていないと、あえて伝えたとも考えられます。

和子の強烈なキャラクター性のために、戸田の人間性が隠されているのではないでしょうか。太宰のことですから、作家の方にも虚栄心を用意して、実は和子に訪問された戸田も、あやうく「恥」をかくところだった、という裏設定があってもおかしくありません。恥の二重構造とでも言いましょうか。

「小説家なんて、つまらない。人の屑だわ。」という和子の台詞は、太宰が自分の虚栄心に対して突きつけた、自虐の文章だったのかもしれません。

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