太宰治『正義と微笑』あらすじ解説 希望に満ちた青春長編小説

正義と微笑 散文のわだち
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太宰治の小説『正義と微笑』は、戦中に執筆された長編小説です。

陰鬱とした印象が強い太宰文学には珍しい、希望に満ちた青春小説として愛されています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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『正義と微笑』作品概要

作者太宰治(38歳没)
発表  1942年(昭和17年)  
ジャンル長編小説
日記小説
テーマ青年期の葛藤
夢想家とリアリスト

『正義と微笑』あらすじ

あらすじ

病床に臥す母、その看病に束縛され最近になってようやく嫁入りした姉、大学に通いながら小説家を目指す兄。そんな家庭で暮らす17歳の芹川進が主人公である。

進は青年期特有の自意識のために、学校や教師や友人たちに不満を持っている。純粋な理想を抱く思春期ゆえに、世間と折合いを付けられず卑屈になっているのだ。

そんな進は、第一高の受験に失敗し、その挫折から兄と対立するが、結果的に兼ねてからの興味である演劇の道を志すようになる。兄や知人の協力を得ながらオーディションに挑み、見事な才能を発揮し、一流の劇団「春秋座」への入団が叶う。厳しい訓練に耐えながらも、初舞台を迎える。その後も地方を飛び回って演劇の世界に刻苦する日々が続く。

かつて世間に不満を抱き、ロマンチシズムに焦がれていた青年は、いつしか俳優という職業で金を稼ぐようになり、そんな自分はリアリストになったことを実感するのであった。

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太宰治の映画がおすすめ

太宰治に関する映画は多数発表されています。

・『人間失格』生田斗真主演
・『ヴィヨンの妻』
松たか子主演
・『グッドバイ』
仲村トオル(演劇)
・『人間失格 太宰治と3人の女たち』小栗旬主演

中でも『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、山崎富栄と自殺するまでの怒濤の人生が描かれており、特に人気が高いです。

監督は蜷川実花で、二階堂ふみ・沢尻エリカの大胆な濡れ場が魅力的です。

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『正義と微笑』個人的考察

個人的考察

知人の日記を題材にした作品

太宰にしては妙に明るい長編小説・・・

そんな『正義と微笑』は、太宰治の一番弟子である堤重久の弟、堤康久の日記が題材である。当時発行された書籍のあとがきには、その事実が太宰本人によって明かされている。

『正義と微笑』は青年歌舞伎俳優T君の少年時代の日記帳を読ませていただき、それに依って得た作者の幻想を、自由に書き綴った小説である

『正義と微笑 -あとがき-』

15、6歳の頃の堤康久の日記には、学校や教師や友人への批判、自己嫌悪、未来への憧憬など、思春期特有の多感な心情が綴られていた。そのユーモラスな内容を太宰がフィクションを交えながら小説に仕上げたのだ。

主人公の芹川進は、太宰を想起させるキャラクターであるため、繊細な心理描写などは太宰の創作だと考えられる。あるいは作中に幾度となく描かれる聖書の引用については、キリスト教に興味を持っていた太宰本人の着色だと言われている。だが実際にモデルとなった堤康久は若手俳優として活躍し、戦後は本作の主人公の名前である「芹川進」という芸名で活動した。

このように他者の日記や手紙を題材にした作品は珍しくない。例えば太宰治の出世作とも言える『女生徒』は、ファンの女性の日記が題材になっている。『トカトントン』という作品もファンレターが題材になっている。あるいは本作が収録される作品集の表題作『パンドラの匣』もファンの病床日記が題材になっている。

このように、他者(あるいは自身)の実体験を元に創作された作品は多く発表されている。

そもそも小説には「私小説」なるジャンルが存在する。太宰自身、実際の出来事(自殺未遂など)を題材にした作品が多く見られる。

ただし、小説とはあくまで創作物である。単なる日記では芸術とは呼び難い。それをいかに巧みに創作し芸術品に仕上げるかが小説家の技量であろう。そういう意味で、太宰は日常の些細な出来事や、他者の何気ない記録などを、優れたユーモアと繊細な意識の流れによって文学に昇華させる天才なのだ。

とりわけ『正義と微笑』は、他者の記録を題材にした小説の中で、最高傑作と言えよう。

希望に満ちた青春小説

一般的な太宰文学のイメージは、陰鬱で破滅的な作風であろう。おそらく代表作『人間失格』の印象が先行し過ぎているせいだ。

あるいは最初の作品集『晩年』や、精神病院に入院していた時期の作品集『二十世紀旗手』なども暗い。自殺未遂の体験を題材にした作品が多いし、とにかく主人公が死にたがる。

一方で太宰は、シャレの効いたユーモラスな作風でも有名である。

時期によっては(中期ごろ)滑稽で明るい作品も多い。中でも特に希望に満ちた物語なのが、本作『正義と微笑』だ。太宰文学には珍しい、未来に憧憬する青春小説である。

青春小説について、新潮文庫あとがきに素晴らしい考察が記されている。青春小説とは選ばれた文学者だけが創作できる稀有な作品らしい。青春期における自己形成の最中では、日常そのものが小説的であり、それを客観視して創作物に落とし込むのは困難である。かといって、青春期を過ぎた人間が、当時の心情を回想的に描こうとしても、どうしてもリアリティが欠けてしまう。(「新潮文庫あとがき」より)

この意見にはかなり納得させられる。確かに多くの青春小説は、いたずらにノスタルジーを刺激するばかりで、実際の生々しさを排除し美化したものばかりだ。「エモい小説」などと呼ばれる作品はその典型だ。

ところが選ばれし小説家は、既に青春期を過ぎているにもかかわらず、当時の葛藤や意識の流れを生々しく描くことができる。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』がその代名詞であろう。そしてサリンジャーに劣らず、太宰治も選ばれし小説家である。ここまで青春期の葛藤を生々しく描ける作家は多くない。

わが友の、笑って隠す淋しさに、われも笑って返す淋しさ。

『正義と微笑/太宰治』

この一節に、選ばれし小説家としての太宰の技量が表れている。

主人公の進は、思春期故に周囲の人間に対して大袈裟に悪態を吐く。その一方で、不意に他人の小さな染み、しかも多くの人間が見落としがちなあまりに小さな染みを発見し、そこから他者の悲しみを想像して、自分も悲しくなるような描写が多く含まれている。

確かに思春期の頃は、多感である故に、あらゆることが目に留まり、ほんの些細な出来事よって、自殺以外に手段が考えられないようなどん底に落ちることがあり得る。だが良くも悪くも思春期を過ぎると、徐々に世間と折り合いをつけ、そんな繊細な感覚を過去に置き去りにしてしまう。だが太宰は置き去りにしなかった。そういう作家は、自身の破滅を代償に、とんでもない青春小説を残す。

この手の繊細な描写は太宰文学全般に通づる。だが最も活きているのは本作『正義と微笑』ではないだろうか。

タイトルにもなる聖書の引用の意味

本作『正義と微笑』の特徴は、作中に聖書の引用が多く為されることだろう。

タイトルにもなる「微笑もて正義を為せ!」は、『マタイ伝福音書 第6章第16節』から得た教訓であり、最も重要なキーワードだ。

この教訓は、「断食をする時には、偽善者がするように、陰気な顔つきをするな。」という意味である。つまり、苦しい試練の最中に、陰気な表情を作ることで、周囲にアピールしようとする偽善的な行為を批判しているのだ。

まさに舞台俳優として刻苦する進の人生哲学が表れた教訓である。

日々の稽古は厳しく、進は精神的に落ち込むことが多かった。だが彼の根本には「人を楽しませるのが何よりも好き」という思いがあった。俳優とは役を演じるだけではない。精神的に疲弊する裏の顔を世間に見せてはならず、人生を通して「人々を楽しませる」人間を演じ切らねばならないのだ。

すれちがう人、ひとりとして僕の二箇年の、滅茶苦茶の努力には気がつくまい。(中略)芸術家の運命は、いつでも、そんなものだ。

『正義と微笑/太宰治』

舞台裏の素の姿に需要がある昨今の価値観では、理解しにくいかもしれない。しかし舞台上のスターには、生活感を匂わせない美徳も確実に存在する。

つまり「微笑もて正義を為せ!」とは、舞台俳優として人々を楽しませ続ける、進の芸術家としての生き様を表した教訓だったのだ。

この教訓は、太宰治の人生にも付き纏った。「微笑もて正義を為す」行為が過剰になると、道化を演じるような破滅的な方向に陥る。事実太宰は、人を楽しませるのが好きな性格であったが、しばしば道家のようになり、それが自己嫌悪を引き起こしていた。

お道化を演じて、人に可愛かわいがられる、あの淋さびしさ、たまらない。空虚だ。

『正義と微笑/太宰治』

人を楽しませることと、道化を演じること。似て非になる両者の葛藤に苦しんだ太宰だからこそ、自身の反省の意を込めて、進青年に希望を託したのかもしれない。

リアリストに成長する青年

本作は、受験に失敗し挫折した青年が、舞台俳優として金を稼ぐようになるまでの二年間の物語である。その二年という葛藤の年月を経て、進はリアリストになったことを実感する。

人間には、はじめから理想なんて、ないんだ。あってもそれは、日常生活に即した理想だ。(中略)僕は民衆のひとりに過ぎない。たべもののことばかり気にしている。

『正義と微笑/太宰治』

学生時代の進は、学校や教師や友人をことさらに非難していたが、それはある種の純粋な理想を抱いていたからだ。例えばそれは宗教であり、例えばそれは芸術に対する憧憬だ。

だが実際に舞台俳優になり金を稼ぐようになった進は、目の前の生活や稽古に刻苦するようになる。あーだこーだ理想を掲げる前に、飯を食うことが最重要事項に変わったのだ。

一方の兄は、未だ小説家として日の目を見ることなく、理想を追い続けている。そんな兄との立場の違いから進はリアリストに成り果てた自分を実感したのだろう。

あるいは性についての描写も象徴的だ。

性欲の、本質的な意味が何もわからず、ただ具体的な事だけを知っているとは、恥ずかしい。犬みたいだ。

『正義と微笑/太宰治』

おそらく舞台俳優として全国を回る中で、女性との快楽を知ったのだろう。童貞の頃に抱く女性に対する神話が崩れ、進は酸いも甘いも知ったわけである。

これらは青年期を過ぎた者が経験する、自分自身に対する幻滅であり、しかしそれを自然と受け入れている物悲しさであろう。多くの者は若き日の純心を捨てて、「生活」を選ぶのだ。

だが一部の人間は違う。その典型が太宰治である。彼は最後までリアリストになりきれなかったばかりに、「人間失格」したのだから・・・

太宰治おすすめ代表作10選

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