谷崎潤一郎『鍵』あらすじ解説|問題になったワイセツ文学

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鍵1 散文のわだち

谷崎潤一郎の小説『』は、中年夫婦の愛欲を描いた日記形式の作品である。

世界各国で翻訳された後年の代表作だが、日本国内ではワイセツ文学として政治問題にもなった。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察していく。

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作品概要

作者谷崎潤一郎(79歳没)
発表時期  1956年(昭和31年)  
ジャンル長編小説
日記小説
ページ数140ページ
テーマ中年夫婦の愛欲
夫婦の性事情

あらすじ

あらすじ

ある初老の夫と、その妻の愛欲の物語です。

夫は様々な種類の愛撫を求めるが、妻はノーマル以外の行為を受け入れない。一方で、妻は異常に性欲が強いが、夫は精力的についてこれない。お互いに性の相性が合わないと感じている夫婦が、その思いをそれぞれ記した日記の内容で物語が構成されています。

夫は情けない自分の精力を刺激するために、娘の縁談相手である木村を、妻に接触させます。妻と他の男を親しくさせ、夫はその嫉妬心を逆に興奮剤として利用しているのです。二人が一線を超えないギリギリの行為をするほど、夫は興奮し、その夜の営みが良くなるのでした。ところが、夫は性欲を昂らせるために不摂生な生活を行ったため、次第に健康を害します。それでも性的興奮のために医者の警告を無視した結果、妻との性行為中に病に倒れ、そのまま死んでいまいます。

夫の死後に妻は、夫の日記を盗み読んでいたことを明かします。自分の日記を夫が盗み読んでいることも知っていました。そして、妻が日記に書いている内容は、夫を陥れるための偽装されたものでした。夫を性的に興奮させ、不摂生な生活に追い込んで病死させる計画があったのです。本当は木村と一線を越えた不倫関係にあったため、意図的に夫を死に追いやったのです。

木村は世間的な建前として形式的に娘と結婚し、母である妻と同居することで、実質的に妻と結婚生活をすることが叶ったのでした。

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個人的考察

個人的考察-(2)

「ワイセツ文学」として政治問題に?

晩年の谷崎潤一郎は、体調が優れず、血圧も高かったため、死を意識するようになります。

その心境の変化は、作風にも反映されます。

自らの死を意識することで、改めて「性」についての主題を掘り下げ、「老人の性」という分野に行き着きます。その先鋒を担ったのが、本作『鍵』でした。

当時「老人の性」を扱った文学は稀であったため、谷崎は新しいカテゴリーを築いた先駆者と言えるでしょう。あるいは、現代でもセックスレスをテーマに描いた文学はあっても、初老夫婦の尽きぬ愛欲を描いた作品は希少過ぎて、いまだに谷崎文学は唯一無二です。

ところが、この『鍵』という作品は、当時あるトラブルによって、プロットの変更を余儀なくされています。

原因は、作中に描かれる大胆な性描写です。

大胆な性描写について、世論の異常な反響があり、マスコミの渦中に巻き込まれたのです。その発端となったのは、週刊朝日に掲載された、「ある風俗時評 ワイセツと文学の間 谷崎潤一郎氏の『鍵』をめぐって」という批評です。

これによって作品は、「ワイセツか、芸術か」という馬鹿げた二元論で批評されるようになりました。

おまけに、売春防止法審議中の国会でも取り上げられ、政治問題にまで発展し、「ワイセツ文学」として糾弾されました。

このような経緯から、プロットを変更せざるを得なくなったようです。実際は、もっと過激な描写が含まれる予定だったみたいです。

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推理小説の要素で読者を騙す

谷崎潤一郎は、実は推理小説・犯罪小説の分野にも着手していました。

実際に『谷崎潤一郎犯罪小説集』という書籍も出版されています。

本作『鍵』においても、推理小説的な技巧が使用されています。その最もたるが、「小説が読者を騙す」という手法です。

物語は夫婦の日記の内容のみで構成されています。つまり、一般的な小説の「語り手」が不在で、読者は何の信憑性もない他人の日記を読んでいるわけです。日記の中であれば、嘘を記すことだって可能になります。

夫婦の日記は、そもそも相手に盗み読みさせるつもりで書かれたものでした。始まりは、性の話題を避ける妻に、自分のフェチを理解してもらいたい夫が、その内容を日記に書き、わざと妻の目に触れるようにしたのです。

一方で、妻の日記の中には、夫が何かを企んでいることは勘づいているが、彼の日記を盗み読みすることはない、と記されています。

あるいは、木村との接触に関しても、夫から訳の分からなぬことを強要されているようなニュアンスで記したり、肝心な部分は泥酔していて記憶がないなど、まるで自分は夫の策にハマっていることを訴える内容になっています。

もちろん、読者も小説の内容を信用した前提で読み進めるので、妻が嘘をついているなんて予想もしません。むしろ夫の性的興奮の作戦がどうなるのかにばかり注目してしまいます。

ところが夫の死後に、妻は夫の日記を隈なくチェックしていたことが明かされます。あるいは、夫が自分の日記を読んでいることにも気づいていました。つまり、妻は夫の真意を解した上で、自分の日記には夫を欺くための嘘を記し、ある策略を裏で図っていたのです。

読者は夫の変態性にばかり注目して、まさか妻が策士だとは疑いません。ところが、実際は妻こそがとんでもないやり手だったのです。これはある種、谷崎文学に共通する「悪魔主義」的な女性像が表れているのだと思います。

では、悪魔的な妻は、裏でどんな策略を立てていたのでしょうか。

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妻:郁子の本当の目的とは

妻・郁子の策略は、夫を性的に興奮させ、不摂生な生活に追い込んで病死させることです。

木村と不倫関係にあるため、夫を意図的に病死させる目的があったのです。

しかし、こういった策略は当初から郁子の中にあったわけではありません。最初のうちは、夫に尽くそうという思いしかありませんでした。

木村に接近したのも、夫の日記に嫉妬が興奮剤になると記されていたからです。

元来僕ハ嫉妬ヲ感ジルトアノ方ノ衝動ガ起ルノデアル。ダカラ嫉妬ハ或ル意味ニオイテ必要デモアリ快感デモアル。

『鍵/谷崎潤一郎』

現在で言うところの、ハプニングバーで妻を他の男に寝取らせ、それを興奮剤にして、夫婦間の愛欲を再燃させるようなものでしょうか。(そういう方法で中年夫婦が夜の営みを改善する事例があると聞いたことがあります・・・)

ともかく、郁子は夫に献身的であるために、木村と親しい関係になったのでした。それは夫の意向に忠実な行為だったのです。

ところが、いつしか木村に対して恋心が芽生えてしまいます。

それからというもの、建前上は夫の興奮のためを装い、裏ではガッツリ木村と関係を結んでいました。郁子の日記には、木村と一線を超えていないと記されていましたが、それは夫に策略を勘付かれないための偽装工作だったのです。

夫を死に至らしめた後は、木村は娘の敏子と結婚することになりました。しかし、これは世間向けの建前です。娘と結婚すれば同じ家で暮らすことになります。さすれば、郁子は木村と疑似的な夫婦生活を叶えられるのです。というのが、郁子の最終的な目的なのでした。

ある種、日記を使った夫婦間の心理戦、騙し合いの戦いです。ただし妻の方が何枚も上手だったということですね。

そして、読者も郁子の策略に気付かぬまま、まんまと騙されていたわけです。

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実は娘が黒幕だった?

作中で最も不可解なのは娘:敏子の存在です。

敏子も父の病死に手を貸した形跡があるかのように書かれています。小説の表面には現われませんが、黒幕である可能性が推測されます。

ところが、実際に娘が何を考えていたのかは記されないため、真相は定かではありません。

妻:郁子の考察では次の通りです。

敏子は、母に奇妙な性の営みを強要する父を憎んでいました。母の健康を気遣っていたのです。ところが、母が自分の婚約者である木村に接近し始めた時点で、敏子の中には父母両方を憎む気持ちが芽生えたようです。

つまり、木村を取り合って、母と娘は激しく嫉妬しあっていたのです。

木村の愛がより多く母に注がれてゐることを知ってゐるが故に、先づ母を取り持つておいて徐ろに策を廻らすつもりでゐたことも、私には読めてゐた。

『鍵/谷崎潤一郎』

敏子は母の見方をするふりをして、裏で個人的な策略を図ろうとしていたようなのです。ところが、その策略がどういった内容で、どういった伏線を孕んでいたかは一切謎のままです。

この腑に落ちない娘の存在は、プロットの変更を余儀なくされたことによる弊害ではないか、と考えられています。つまり、実際はもっと娘の存在が物語に伏線を張り巡らし、結末に大きな影響を与えるはずだったのではないか、という考察です。

プロットが変更された以上、敏子の真意を知ることは不可能です。ただし、結果的に敏子は木村と結婚することになった、という事実だけが彼女の怪しい策略を匂わせます。

夫を意図的に病死させ、最終的に木村を手に入れたのは、妻ではなく、娘だったのかもしれません・・・

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