夏目漱石『私の個人主義』あらすじ解説|講演会の内容紹介

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私の個人主義 散文のわだち

夏目漱石の『私の個人主義』は、1912年に行われた学習院輔仁会における講演録です。

講演の名手として定評があった漱石が、個人主義について語った内容が収録されています。

本記事では、あらすじを紹介した上で、講演会の内容を考察しています。

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作品概要

作者夏目漱石(49歳没)
発表時期1914年(大正3年)
  講演は1912年11月25日  
ジャンル講演録
思想啓蒙
ページ数37ページ
テーマ個人主義
自由と責任

あらすじ

あらすじ

学習院大学の学生団体に向けた講演内容が収録されています。

漱石の考える「個人主義」とは、自己の個性の発展を意味します。自分が向かいたい道を自己本位で掘っていくことが、個人の幸福のために必要だと言うのです。ただし、個性の発展には倫理的修養を積む必要があります。要するに、個人主義と利己主義の違いを説いているのです。自己の個性を追求する以上、他人の個性を尊重することが鉄則なのです。

時に個人主義にちなんで、権力や金力を濫用する者がありますが、漱石はその危険性を強く警告しています。個性、権力、金力、この三者を亨け楽しむには、それに伴う責任を重んじる必要があるのです。責任を放棄すれば、たちまち社会は腐敗し、利己主義が蔓延ります。学習院大学の生徒たちは、将来的に権力や金力に恵まれる可能性が高いだけに、漱石はその責任をもって諭すのでした。

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個人的考察

あらすじ

漱石の作品に見る個人主義

夏目漱石の小説を読んだことがある人なら、彼がいかに個人主義を啓蒙するのに生きた文豪であるかが分かると思います。

その背景には「明治時代」の価値観が大きく関係しています。

代表作『三四郎』では、都会に進学した三四郎の叶わぬ恋物語が描かれていました。通俗的な恋愛青春小説に留まらず、明治期の日本を批評する内容が多く記されています。とりわけ、日本人の価値観が狭いという内容でした。依然として集団主義的な価値観に囚われた国民性を風刺していたのでしょう。

ヒロインである美禰子が口にした「Stray Sheep」という台詞。これは自由恋愛が許されない結婚観に苦しむ、明治期の女性の悲嘆の意が含まれていました。つまり『三四郎』には、個人主義の敗北の末に叶わなかった悲しい恋愛という背景があったのです。

このように漱石は、明治期にいち早く西洋の価値観を吸収し、小説を通して個人主義という考えを訴えていました。ただし、読者にある程度の教養がなければそういった主題を見出すことが難しく、その点において『私の個人主義』では明確に彼の想い描く個人主義のあり方が露呈されているので分かりやすいです。

ちなみに明治期には許容されなかった個人主義は、大正時代になると「大正デモクラシー」の名の通り、日本国内に浸透していきます。その変遷を象徴するのが芥川龍之介という次世代スターの登場です。人間の利己的な側面に焦点を当ててシニカルに描く作風は、集団主義の時代が終焉したことを物語っています。

この明治から大正への価値観の変遷は、漱石の代表作『こころ』にも色濃く現れています。父親の危篤と先生の自殺が、乃木希典の自殺と重ね合わせて描かれる部分に注目すれば、時代の過渡期における国民の混乱を読み解くことができます。

こういった前提知識を踏まえた上で、『私の個人主義』の内容を解説していきます。

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漱石の悩みと、本当の個人主義

講演において、個人主義の啓蒙に至るまでの前置きとして、漱石は自身のこれまでの経緯を簡単に説明しています。その中で、教員の職に不満足だという心中を明かしています。彼が教員の職を務めていた経験は代表作『坊っちゃん』の題材にもなっています。

漱石は空虚な気持ちを抱えながら、興味の無い教員の職を務めていたみたいです。だからと言って、自分が本当に向かいたい本領が何なのかも見出せずにいました。その時の状態を「霧の中に閉じ込められた孤独の人間」と漱石は表現しています。

漱石はイギリス留学をして、実際に西洋の風土を体験したにもかかわらず、やはり心の霧は晴れなかったようです。

神経症に陥いるほど悩んだ漱石。彼が最終的に見つけた答えとは、文学の概念を根本的に自力で作り上げる、というものでした。

それは当時の日本人が、自分の腑に落ちなくても西洋人の言うことは正しい、と受売りの知識を蓄える状態を批判してのことです。西洋が日本より先進的な考えを持っていることは事実であれど、個人がその是非を考えることなく、他人本位的な姿勢で順応する危険性を指摘していたのです。

西洋人がそうであるから、大衆がそうだから。それはある意味、集団主義的な価値観から抜け出せていないのと同じです。

だからこそ、漱石は自己本位による創作を追求し、本当の意味での個人主義に到達しようとしたのでしょう。この考えに気づいた途端に彼の心の霧は晴れ、行手を明確に知ることができたと話しています。

とかく個人主義の前提条件には、他人本位ではなく、自己本位であることが鉄則ということでしょう。自分の頭で物事を判断し、自分が本当に向かいたい道を追求することが、漱石の言う個人主義なのでした。

仮に自信も安心もないまま在来の古い道を辿れば、生涯不愉快で、始終中腰になって世の中にまごまごしていなければならない、と漱石は警告しています。

講演から100年以上が経過した今現在。依然として人々は同様の問題に頭を抱え、不安な気持ちに苛まれているように思います。個人主義の時代になったから個人主義なのではなく、個人が自己の幸福を追求することが叶って初めて個人主義なのでしょう。それは今でも非常に困難なものです。我々の多くは、漱石が指摘する、集団主義的に個人主義を許容する受け売りの知識人ということになるかもしれません。

ここで作中の名言をひとつ掲載しておきます。

もし途中で霧か靄のために懊悩していられる方があるならば、どんな犠牲を払っても、ああここだという掘当てるところまで行ったらよろしかろうと思うのです。必ずしも国家のためばかりだからというのではありません。またあなた方のご家族のために申し上げる次第でもありません。あなたがた自身の幸福のために、それが絶対に必要じゃないかと思うから申上げるのです。

『私の個人主義/夏目漱石』
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個人主義と利己主義の違い

講演の聴衆である学習院大学の生徒たちが、上流社会の子弟ばかりであることを踏まえ、漱石は個人主義の注意点を警告しています。

学生達は裕福な育ちである故に、将来的に権力と金力を有する可能性が大いにあります。ただし「個人主義」と「権力・金力」は道義の上に結びついていると漱石は主張します。つまり、個性を追求するために、権力を他人の頭の上に無理やり押しつけ、金力で誘惑することが出来てしまうのです。

こういった危険性を指摘した上で、漱石は個人主義と利己主義の違いを述べています。

  • 個人主義:自分の個性を追求し、他人の個性も尊重する
  • 利己主義:自分の個性のために、権力と金力で他人を押さえつける

芥川龍之介が描いた人間のエゴイズムなどは、完全に後者になります。

つまり、人間は自分の個性を追求する上では、必ず周囲の人間に自由を与えてもらっているわけですから、自分も同様に他人が個性を追求する際には、尊敬の念を持って自由を与える必要があるということです。

これは西洋や欧米的な価値観だと思います。日本の場合は幼い頃から、他人に迷惑をかけないようにしろ、と教育されます。ただし、個性を追求する上では他人に迷惑をかけるのは仕方ないことであり、だからこそ自分も他人を尊重することが重要になってくるわけです。

西洋と日本、どちらの価値観が適しているかは分かりませんが、個人的には「出る杭は打たれる」に象徴される日本の国民性が苦手です。あるいは、他人が新しい道に踏み出した時に、面白そう、楽しそう、と尊敬の念を持って許容できる人間ほど美しいものはありません。

自分の利益のために他人の頭を踏みつける。それは利己主義であり、個人主義の対極に位置します。抜きんでた存在を引きずり下ろそうとする。それは未だ集団主義から抜け出せない事実を物語っています。

権力と金力でモノを言わせる支配者、不義も厭わない義のために自由を叫ぶ活動家、ネットに誹謗中傷を書き込む緩やかな自殺者。そういった跳躍した部分に個人主義がもたらす幸福は存在しないように思います。まずは道義、その上にしか成り立たない個人主義だからこそ、人間としての徳義心を試されるのでしょう。

自分が本当に好きなものを知っている人間には敵わない。その純粋な感情を、集団主義によって踏みにじらない社会であってほしい。

私感が過ぎました。

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2016年にNHKドラマ『夏目漱石の妻』が放送された。

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