金原ひとみ『蛇にピアス』あらすじ考察 芥川賞作 吉高由里子主演の映画紹介

蛇にピアス 芥川賞のわだち
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金原ひとみの小説『蛇にピアス』は、デビュー作であり芥川賞受賞作です。

ピアスやタトゥーを題材に破滅的な若者を描いた本作は、選考委員の中でとりわけ村上龍から強く指示されました。

2008年には吉高由里子主演で映画化され話題になりました。

『蛇にピアス』作品概要

作者金原ひとみ
発表時期2003年(平成15年)
ジャンル中編小説
テーマピアス・タトゥー文化
破滅的な若者
受賞第130回芥川賞
関連2008年に映画化
吉高由里子主演

読書が苦手、時短したい・・・

『蛇にピアス』あらすじ

あらすじ

主人公のルイは、クラブで出会ったアマのスプリット・タンに魅せられる。スプリット・タンとは、蛇のように舌を二つに分裂させた人体改造のことだ。興味を持ったルイは、アマの知り合いシバさんの店で、スプリット・タンにするために舌にピアスを開けてもらう。さらにタトゥーにも興味を持ち、ルイは人体改造にのめり込んでいった。

数日後、ルイは夜道で暴力団風の男に絡まれる。一緒にいたアマは衝動的に相手の男を滅多撃ちにする。後日暴力団員が死んだというニュースが報道され、ルイは心の隅で危機感を抱いていた。

タトゥーを入れる決心をしたルイは、背中に龍と麒麟のデザインを彫って欲しいとシバさんにお願いする。ただし画竜点睛のことわざに従い、瞳は入れないつもりだった。タトゥーの代償として、アマに内緒でルイはシバさんと肉体関係を持つようになる。

しかしタトゥーの完成と同時にルイは生きる意味を見失い、アルコールに依存する。一方でアマは突然行方不明になり、数日後、無残な死体で発見される。生きる気力を完全に失ったルイは、シバさんと暮らすようになる。当初ルイは、暴力団関係の人間にアマが殺されたのだと思っていた。ところがアマの死体の隠部に刺されていたお香と同じものを、シバさんの家で発見してしまう。

ルイはシバさんにお願いし、タトゥーの龍と麒麟に瞳を入れてもらう。そしてスプリット・タンが完成しない舌には大きな穴が残ったのだった。

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『蛇にピアス』は2008年に、吉高由里子主演で映画化されました。

原作の世界観を損なうことなく、暴力や大胆なヌードを描き出した映画版はかなり話題を呼びました。

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『蛇にピアス』個人的考察

個人的考察

最も注目された芥川賞受賞作

第130回芥川賞(2004年)は、史上最も世間の注目を集めた回だったと言える。

当時20歳の金原ひとみのデビュー作『蛇にピアス』と、史上最年少の綿矢りさの『蹴りたい背中』がW受賞を果たした回なのだ。

受賞作と選評が掲載された『文藝春秋』は、雑誌としては異例の118万部越えを記録した。

作品の純粋な魅力は勿論、金原ひとみという作者像もまた注目を集めた要因の一つと言える。

作者は小学4年生の頃に不登校になり、それ以降は中学・高校と殆ど通っていない。小学6年生の頃には、父親の留学に同伴する形で一年間サンフランシスコで暮らしている。現地ではほぼ毎日小説を読んで過ごし、自分でも創作を試みるようになったみたいだ。

そんな作者が20歳で発表した『蛇にピアス』は、実際に作者が抱えていた鬱屈とした感覚が溶け込み、作品に妙な生々しさやリアルさを与えているように感じる。

ちなみに作者が不登校時代に影響を受けた作品に、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』を挙げており、新装版では彼女が解説を担当している。

一方で『蛇にピアス』の文庫版では、村上龍が解説を担当している。また芥川賞の選考委員だった村上龍は本作を受賞させるために、他の選考委員を説得しようと考えていたと解説に記されている。かつて『コインロッカー・ベイビーズ』に感銘を受けた金原ひとみにとって非常にドラマティックな因果を感じさせる。

次章からは、村上龍のDNAを引き継ぐ暴力的で破滅的な作品を考察していこうと思う。

ピアス・タトゥーへの執着の理由

今日、ピアスやタトゥーに対する印象は単なるファッションとして受け入れられている。

しかし、本作の主人公ルイのピアスやタトゥーに対する異常な執着は、単なるファッションのそれとは言い難い。

ルイの過去については一才語られない。だが、彼女が鬱屈とした感覚を抱いているのは物語から読み取れる。ルイが繁華街を歩いている時に、家族連れの人々を目にして吐き気を覚える場面が象徴的だ。

こんな世界にいたくないと、強く思った。とことん、暗い世界で身を燃やしたい、とも思った。

『蛇にピアス/金原ひとみ』

ルイは社会に相入れない感覚を持ち、そこから逸脱した存在になりたいと願っている。しかし願っているだけで具体的な手段を見つけられないゆえに、息苦しさを感じているのだろう。

作者の金原ひとみは、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』の解説で次のような文章を記している。

今も私はコインロッカーの中にいる。外に出る方法は分からない。(中略)私も必ず何かしらの方法でコインロッカーを、世界を破壊することが出来るはずだ。

『コインロッカー・ベイビーズ-解説-』

自分を抑圧する世界から抜け出したい衝動、それはまさにルイが抱いていた感覚だろう。

そんなルイの転機はアマとの出会いだ。アマを通してスプリット・タンやタトゥーを知り、自分の価値観を壊された感覚になる。人体改造という手段に、閉塞的な世界からの突破口を見出したのではないだろうか。

事実ルイは、異常にピアスやタトゥーを施したアマやシバさんと並んで歩くとき、人々が恐れ慄く感覚に愉悦を覚えていた。あるいは作中では人体改造が、神様に背く行為と綴られている。社会や神の手中からさえも逸脱した場所に自分の在処を見出す手段として、ピアスやタトゥーが機能していることが読み取れる。

しかし、逸脱の象徴だけでピアスやタトゥーを説明するには不十分に思える。その理由は、タトゥーの完成後にルイが不可思議な倦怠感に襲われるからだ。詳しくは次章で考察する。




タトゥー完成後の倦怠感

ルイがタトゥーに心を惹かれた理由は、所有欲と関連していた。

ルイは所有欲の強さを認めると同時に、所有の悲しみも感じていた。欲しくて堪らないものを手に入れた瞬間、手に入れる前の興奮や欲望が消滅してしまうからだ。

何かを手に入れても、完全に自分の所有物になることはないという感覚だろうか。それに対して、タトゥーは生涯自分の体に残り続ける。だからルイは、タトゥーの永遠の所有性に心を惹かれたのだ。

ところがルイは、タトゥーが完成した途端、生きる意味を喪失してしまう。その原因は描かれないため、ここからは完全に個人的な憶測になってしまう。

一つ考えられる原因としては、実はルイがタトゥーに憧れた理由は、逸脱や所有欲ではなく、半ば自傷的な意味を有していたからではないだろうか。

ルイはMだと自称している。あるいはアマとシバさんのいずれが自分を殺してくれるだろうか、と考えたりもする。こういった危険な精神状態のルイにとっては、タトゥーが完成することよりも、創作過程に伴う”痛み”が重要な意味を孕んでいたのかもしれない。

つまり、痛みによって生の実感を得ようとする自傷的な役割だ。だからこそ、痛みを感じさせない完成品には何の意味も感じられなかったのかもしれない。

あるいは、タトゥーが完成したところで何からも解放されぬ絶望感があったとも考えられる。生を実感できない閉塞的な世界から抜け出したい欲望が、タトゥーやピアスへの固執になり、しかしそれらが完成したところで、何からも逸脱できない絶望を知り、ルイは生きる意味を喪失したのかもしれない。

いずれにしても、ルイは自らの体を傷つけ、痛みを感じる時だけしか生実感を得られない、精神状態だったのではないだろうか。

もっとも破滅や自傷による生の実感は、しばしの麻酔に過ぎず、痛みが消えれば再び夢遊病のような現実に引き戻されてしまう。ルイはこの超えられない感覚に消耗したのだと思う。

なぜ最終的に瞳を入れたのか

ルイは龍と麒麟のタトゥーに瞳を入れなかった。画竜点睛、つまり龍の絵に瞳を入れて完成させた途端、天に昇っていったということわざに則ったのだ。

ところが、最終的にアマを失い、シバさんと暮らすことになったルイは、瞳を入れる。その時のルイの心境は全く不明である。

瞳を入れる直前、ルイはかつてアマに貰った歯を飲み込み、アマの愛の証を自分の体に溶け込ませようとした。このように喪失を恐れるルイが、天に飛び去る可能性のある瞳の追加を実践したのは矛盾しているように感じる。

今、私はこの刺青には意味があると自負出来る。私自身が、命を持つために、私の龍と麒麟に目を入れるんだ。そう、龍と麒麟と一緒に、私は命を持つ。

『蛇にピアス/金原ひとみ』

ルイは、龍と麒麟が飛び立っていくことについて、半ば許容している態度を見せていた。

そもそも龍と麒麟は、それぞれアマとシバさんの体に掘られていたタトゥーだった。つまり、ルイの体には二人の存在が刻み込まれていると言える。

そして瞳を入れたということは、二人の存在が自分から離れていく可能性を示唆している。それでもルイは「大丈夫」と繰り返す。何が大丈夫なのかは分からないし、どこか自己暗示にかけているようにも思える。

あらゆる物事はいつか自分から失われる可能性を孕んでいるが、それでも失われるその日までは大丈夫と思うしかない。そんな決心のような諦めのような思いから、ルイは瞳を入れたのではないだろうか。

スプリット・タンのために空けた舌の穴には、飲んだ水が流れ込み、自分の中に川ができたという感覚を覚える。それはまるでルイの心の中にできた空洞を象徴しているようだ。

心の穴が塞がることはなく、ただ大丈夫と思うしかない。今後も自分はどうなるか判らない。10代のルイには、大丈夫という曖昧な答えしか導き出せなかった、そこに嘘偽りはない。

分かりやすい克服が達成されることなく、いつ自分がダメになってしまうかも分からない、だけどきっと大丈夫。そんな曖昧な結末が、作品に生々しいリアルさを与えているように思う。




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