村田沙耶香『コンビニ人間』あらすじ解説|異物として生きる喜び

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convenience store 散文のわだち

村田沙耶香の小説『コンビニ人間』は、第155回芥川賞受賞作です。

選考員の村上龍は、「この10年、現代をここまで描いた受賞作は無い」と称賛しました。

本記事では、あらすじを紹介した上で、物語の内容を考察しています。

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作品概要

作者村田沙耶香
発表時期  2016年(平成28年)  
受賞芥川賞
ジャンル中編小説
ページ数133ページ
テーマ”普通”とは?
多様化と生産性

300字あらすじ

あらすじ

主人公の古倉恵子は、大学卒業後に就職せず、30代半ばになった今も、コンビニのアルバイトを続けています。

彼女は幼少の頃から反世俗的で、大人を困らせることが多々ありました。両親からは「どうすれば『治る』のか」と心配されています。しかし、彼女には何を修正すれば、普通の人間になれるのかが分かりません。

年齢を重ねるうちに、周囲は結婚や出産を経験し、過度に他人に干渉するようになります。そういった世間の無神経な要求の中で、同じような境遇の男との奇妙な出会いによって、主人公は一度は就職活動をする羽目になります。

しかし、彼女はコンビニこそが自分の天職であることを再確認し、コンビニ店員への復職を決意するのでした。

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あらすじを詳しく

①『治らない』主人公

主人公の古倉恵子は、大学を卒業してから30代半ばの今までずっと、コンビニ店員として働いています。

彼女は幼少の頃から周囲に奇妙がられることが多々ありました。例えば、公園で小鳥の死骸が落ちていた時には、「持って帰って焼き鳥にしよう」と言って、母親や大人たちを絶句させました。あるいは小学生の頃に、教室で男子が喧嘩を始め際に、喧嘩を止める一番手取り早い方法として、スコップで男子の頭を殴り大問題になりました。

「普通」の子供ならしないことを、彼女は躊躇なく実行しますし、それがなぜいけないことなのかが理解できないのです。

両親からは「どうすれば『治る』のかしら」と心配され続け、漠然と自分は何かを修正しなければいけないと感じていました。しかし何を正せばいいのかは判らないのです。

自分の行動で父母が悲しむことは本意ではないので、彼女は次第に寡黙になり、皆の真似をするか、誰かの指示に従うだけの人間になりました。『治らない』自分にとってはそれが一番合理的な処世術だったのです。

②コンビニで形成される自分

真似をするか、指示に従う」という処世術を学んだ主人公にとっては、コンビニのアルバイトは天職でした。

多種多様な人間が、均一な「店員」という生き物に作り直されます。社員の真似をして「コンビニ店員」を演じるだけで、自分が世界の部品になれたような気がするのです。

彼女は完璧なマニュアルがある「コンビニ店員」になることはできても、マニュアルのない「普通の人間」になる方法は分かりません。

彼女の喋り方や服装や持ち物は、その時自分の近くにいる人から伝染されたものだけで出来上がっています。周囲が怒っている時には、自分も怒っているふりをすれば皆が喜んでくれることを知っています。そうやって上手に「人間」を演じるには、干渉の少ないコンビニバイトが適していたのです。

③正常な人間により異物は排除される

学生時代は「黙る」ことに専念していたため、友達がいませんでした。しかし、数年前の同窓会を機に地元の友達と定期的に会うようになりました。

皆結婚して子供がいる中、自分だけが交際経験がなく、フリーターです。「体が弱い」という嘘の理由を準備することで、友人から訝った目で見られることを回避しています。

人間は自分の理解できないものを不気味に思い、勝手に理由づけしてしまいます。つまり、企業に就職し、結婚し、子供を作るのが当然という世間的な欲望が存在して、その通りに生きない人間を異物として扱うのです。そして異物は正常な人間によって排除されます。

主人公は、正常な友人たちとの交流の中で、正常ではない自分に皆が勝手に干渉し、徐々に自分が異物になっていく感覚を抱きます。

「異物は削除される、だから『治る』必要がある」と彼女は親の言葉を徐々に理解し始めます。

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④白羽さんとの出会い

白羽さんという男性が新しくコンビニバイトに入ってきます。

彼はバイトの目的を婚活だとうそぶき、仕事もろくにせず、店に来た客にストーカーをするなど、奇行が目立ちます。その上、コンビニで働く人間を見下し、社会の仕組みを非難し、無茶苦茶な理論で自分を肯定しようと必死になっています。

素行が悪いためアルバイトを解雇された白羽さんは、その後もコンビニの近くでストーカーを続けていました。主人公が声をかけると、彼はいつものように破綻した理論を口にしながら、ついに泣き出してしまいます。

白羽さんは、主人公と同様、30代半ばでフリーター、恋愛経験なしのため、これまで周囲の干渉に苦しんできました。世界は異物に対しては無神経に干渉し、最終的には排除してしまいます。そのため白羽さんは世の中を恨み、いつか自分が成功して世界に復讐したいと考えています。かと言って何か目的を持って生きているわけでもありません。

主人公と白羽さんは同じ立場でありながら、大きく異なる考えを持っています。

主人公は、コンビニ店員としてマニュアル通りに振る舞えば、世界の部品になれる感覚に満足しています。一方、白羽さんは、社会の仕組みや正常な生き方を非難しつつ、正常ではない自分の人生に後めたさを感じています。その結果、全ての物事に対して恨みを抱くようになっているのです。

自分が不幸なのは、時代のせい、社会のせい、周囲のせい、ほとんど無差別殺人犯のような考えに陥っているのです。

⑤奇妙な同棲生活

主人公と白羽さんは同棲生活を始めます。

「同棲生活をしている」という建前を所有することで、世間に対して「普通の人間」という架空の生き物を演じることが出来て案外便利なのです。

この奇妙な同棲生活には良い点と悪い点がありました。

主人公は自分が同棲を始めたことを周囲に報告すると、妹や地元の友人たちは勝手に解釈をして、掌を返したように喜んでくれます。「30代半ばなのにフリーター」という奇妙な存在に、周囲の人間は理由を求めていたからです。「結婚するつもりだからフリーター」という解釈を得れば、それだけで周囲は安心できます。主人公はこういった周囲の態度の変化から、白羽さんとの同棲を便利な建前だと実感します。

一方、アルバイト先のコンビニでは、主人公と白羽さんが同棲していることを知った途端、均一な「店員」たちは元の人間に戻ってしまいます。マニュアル通りの接客よりも、主人公の色恋沙汰を根掘り葉掘り聞き出そうとするのです。主人公は「店員」としてではなく、「人間のメス」として周囲から干渉されるようになります。

もはや、自分がマニュアル通りの「店員」という生き物であり続けるのは困難になっていました。

⑥就職活動

「良い歳したフリーター同士の同棲」という非難を回避するために、白羽さんは主人公に就職活動をするように要求します。

白羽さんとの成り行きでコンビニのアルバイトを辞め、就職活動を始めることになった主人公は、世界から切断されたような気分になります。

コンビニのアルバイトを中心に回っていた自分の生活から、コンビニが失われたことで、主人公は無気力になり生活が乱れます。

そうこうしているうちに、初めての就職面接の日がやって来ました。

面接会場の最寄駅に到着した主人公と白羽さんは、時間があるのでコンビニに立ち寄ります。良くも悪くも定め、途端に主人公は失われていたコンビニの音が自分の細胞に直接語りかけて来るような感覚に陥ります。

気がつけば無意識に、昼ピークで忙しいコンビニの手伝いを始めていました。それを見た白羽さんは彼女を怒鳴り散らし、無理やりコンビニの外へ連れ出します。

しかし、その時には既に主人公の決心は固まっていました。自分は「普通」の人間である以上に、コンビニ店員なのです。周囲が奇妙に思い納得しなくても、本能的にコンビニ店員として生きていくことを求めているのです。

白羽さんに見限られた主人公が、就職面接を断り、新しいバイト先を見つけ、「コンビニ人間」として生きていくことを改めて決意したのでした。

そして物語は幕を閉じます。

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個人的考察

個人的考察-(2)

選択肢の多様化という幻想

社会や経済が発展するにつれて、人々の生き方は寛容になると言われています。

例えば前時代に差別されていた同性愛者は、LGBTという言葉で総称されて、社会で許容されつつあります。ワークスタイルに関しては、終身雇用の崩壊により、転職のハードルが下ったり、企業に勤めないフリーランスという生き方も認知されるようになりました。我々の生き方は多様化されたのです。

しかし、これらは一種の幻想であり、依然として「正常な生き方」という観念が我々の生活を制約しています。

学校教育においてはいまだに、「良い大学を出て、良い企業に務めるのが人間の本質的な幸福である」という根拠のない理論がまかり通っています。そのため、いくら選択肢が増え、世の中が寛容になったからといって、日本人の考えはまだまだ保守的です。

なぜなら、寛容になる一方で我々は生産性を強要されているからです。つまり、いくら寛容な社会が到来しても、「30代半ばでフリーターで恋愛経験がない人間」は生産性がなく、社会にとって異物であり、排除の対象になってしまうのです。

また、主人公のようにコンビニ店員であることに本能的な役割を感じる人間は稀ではないでしょうか。大抵の人間は白羽さんのように、異物を排除する社会の仕組みに憤りを感じると同時に、自分が異物になってしまうことを極端に恐れています。

要するに、本作は主人公のような完全な「コンビニ人間」という生き物を描くと同時に、異物である自分を許容できない「アンチコンビニ人間」を描いた物語でもあるように思われます。

社会が許容しようがしまいが、結局自分が許容できなければ人生は惨めであるという教訓が読み取れました。

そして大抵我々は「アンチコンビニ人間」なんですよ。

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アスペルガーという個性

本作は「良い歳してフリーターで恋愛経験がない」人間を異物とする現代社会の仕組みを題材にしていました。要するに「普通とは何か?」という問題定義です。

その一方で、「アスペルガー」に関する問題定義も含まれているように思われます。

昨今ではアスペルガーに対する社会の認知も高まりつつあります。しかし依然として、「アスペ」という略称によって揶揄されたり、あるいは、天才と奇人は紙一重という美談で片付けらるのが実情です。

我々が本来認知すべきは、芸術家やアスリートなどの「天才・奇才」ではない、平凡なアスペルガーが大半だということです。物覚えが悪く、他人の感情を想像するのが苦手で、教室で除け者にされたり、会社で役立たずと罵られるような存在です。

「コンビニ人間」の主人公も、両親から『直す』という言葉を使われていました。鳥の死骸を見て可哀想だと思う感情が欠落していたり、教室での喧嘩を手っ取り早く止めるためにスコップで同級生を殴ってしまう部分が、いわゆる社会的に『直す』べき点とみなされたのです。つまり、世俗的な常識を理解できない人間は、アスペルガーという病名で片付けられ、排除されるのが現在の日本の社会だということです。

学者たちは軒並み、「アスペルガーについて理解し、共存すること」を主張します。報道番組でも、論文でも、著書でも、そういう差し障りのない結論で彼らを名ばかりの平穏に丸め込もうとします。

しかし、本作「コンビニ人間」にも綴られるように、干渉する行為こそが最もたる罪悪なのです。理解することと干渉することは異なります。せめて不真面目な我々は、理解した上で干渉しないよう心がけるべきなのです。

それは常識を忘れるほどには物事を好きになれなかった、退屈な人間が守るべき最低限の義務なのです。

君のことを言っているんですよ!

僕も例外なく。

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